なぜペイトリオッツはかくも強いのか(後編)

私が考えるアメフトNFLペイトリオッツの強さの理由の一つ目、トップの資質の続きです。

トップの3人目は、QB(クォーターバック)トム・ブレイディです。

トム・ブレイディ
(FBページからお借りしました)

このトム・ブレイディ、アメフトファンなら誰でも言わずと知れたスーパースターです。
ドラフト6巡目全体199位という後順位でNFL入りしており、当初は期待された選手ではありませんでした。しかし、類い希な「フットボールIQ」の持ち主であり戦術面の研究を怠らなかった姿が、前回2人目でご紹介したベリチックの目にとまり、2年目の2001年シーズンから、当時のエースQBドリュー・ブレッドソーの負傷をきっかけに先発の座に定着しました。その年、そのままスーパーボウルまで勝ち上がり、スーパーボウルも制覇してしまうのです。「シンデレラストーリー」などと言われました。
実は私、現在はバリバリのペイトリオッツファンですが、この2001年当時は、むしろ嫌いでした。2001年というのは、アメリカ同時多発テロが起こった年でした。当時の私は、スーパーボウルの対戦相手となったラムズの方が好きで、というよりもラムズのQBカート・ワーナーが好きだったため、「アメリカがテロに遭った年に『愛国者たち』を意味するペイトリオッツが勝つなんて出来すぎている」と思ったりしていたのでした。

しかし、その後、ペイトリオッツは、本当に出来すぎかというくらいの盤石の強さを誇り、「ダイナスティー(王朝)」とまで言われるようになったのです。私は元来、「ずっとめちゃめちゃ強い」チームのファンになる傾向があります。プロ野球では西武(森監督時代)、ヤクルト(野村監督時代)、ラグビーでは神戸製鋼(平尾選手・監督・GM時代)などです。ずっと勝ち続けるためにはフィロソフィー(哲学)が必要であり、その哲学に惹かれているのかもしれません。

ブレイディの話に戻りますと、ブレイディの凄さは、スーパーボウル勝利数、MVP回数、パス獲得ヤード数、パスタッチダウン数などの様々なNFL記録を持ち、更新していることはもちろんですが、ストイックさにあると思います。シーズン中はもちろん、シーズンオフ中であっても、徹底した健康管理をしていると言われています。ブレイディのFBやIGを見ていると、ハロウィンやクリスマスのときなど、「ちょけた」(関西弁で「ふざけた」というような意味)写真をよく投稿していますが、その裏でたゆまぬ努力を続けているのです。また、トップの写真からも分かるとおり、フィールドの中では感情を表に出すことも多く、ベンチサイドでチームメイトを激しく鼓舞している姿もよく見られます。
そのように、自らストイックに実践する背中を見せると同時に、チームメイトも鼓舞して引っ張っていくリーダーシップがあり、それがブレイディのトップとしての凄さだと思います。

ブレイディに関しても、書きたいことはまだまだあるのですが、そろそろ私が考えるペイトリオッツの強さの理由、二つ目に移りたいと思います。



二つ目は、各選手の能力の高さです。

「何を当たり前のことを」と思われたかもしれませんが、ここでいう「能力」とは、「身体能力」ではありません。「チームのフィロソフィー(哲学)に従い、それを実践する能力」のことです。
ペイトリオッツのフィロソフィー(哲学)は、私なりに一言で表現すると「当たり前のことを当たり前にやる」です。
ブレイディで言えば、無理な体勢で無理なパスを投げることはしません。インターセプトという相手チームにパスを奪われるプレーをされるリスクが高いからです。無理な態勢で無理なパスを通すと、一見華々しいように思いますが、高いリスクを乗り越えた少ないパーセンテージを選択する行為なのです。ですので、ブレイディは、被インターセプト数が非常に少ないです。
また、サインミスやミスコミュニケーションも少ないチームです。戦術を徹底的に叩き込み、それに耐えうる選手が出場しているからでしょう。アメフトは、毎プレー毎プレー、サインプレーが行われるスポーツです。これは裏を返せば、サイン通りプレーが出来れば、理論上はオフェンスは必ず進み、ディフェンスは必ず止められるはずのスポーツなのです。ですので、サインミスをなくし、ミスコミュニケーションをなくすことで、得点の機会を増やし、失点の機会を減らす可能性が高まるのです。
これは、言葉で言うのは簡単ですが、実践するのはとても難しいことです。私が所属していた京大でも、そこまで多くないプレーブックですらサインミスやミスコミュニケーションがまま起こっていました。ましてや、NFLのプレーブックは、電話帳ほどの厚さがあると言われています。これを頭に入れ、相手のプレーに従って瞬時にアジャスト(調整)し、自らのアサインメントを忠実に実行する、というのは、並大抵のアメフトIQではありません。それが、フィールドにいる11人全員に徹底されていること、これが、ペイトリオッツの強さだと思います。

そんな選手たちの中でも、私が現在注目している選手を2人ご紹介したいと思います。

1人目は、FS(フリーセイフティー)デビン・マコーティーです。マコーティーは、フットボールIQが非常に高い選手で、ベリチックが好きな選手と言われています。もう1人のSF(セイフティ−)パトリック・チャンは一度チームを離れたことがありましたが、マコーティーはずっとペイトリオッツにいます。ベリチックが絶対必要としているのだと思います。私はずっとペイトリオッツの試合を観てきていますが、マコーティーがミスしているのを見たことがありません。派手なプレーこそありませんが、極めて着実、それがマコーティーです。

2人目は、前回も名前を出したマシュー・スレイターです。この選手はスペシャルチーム中心の選手なので、注目しなければほとんど目立つことはありません。しかし、スペシャルチームが出場するキッキングは、アメフトの中でも臨機応変の対応が求められる割合が高いプレーです。アメフトをあまりご存じない方が観られると、「ワーッと行って、ワーッとなってる」ように見える、あれはキッキングです。サインはもちろんあるのですが、キックは、狙った場所に必ずしも正確に蹴られるわけではないので、臨機応変さが求められるのです。その分、そのフィールド内で規律維持が非常に重要であり、その役割を果たしているのが、スレイターだと思います。



まだまだお伝えしたいことは山ほどあるのですが、それでも結構長くなってしまったので、またの機会に譲って、今回はここで終わりにしたいと思います。

そんなペイトリオッツですが、今年も現在地区首位を走っており、AFC内の勝利数でもスティーラーズに並んでいます。今年もプレーオフ出場、シード獲得は固いと思います。この後の戦いからも目が離せません。