なぜペイトリオッツはかくも強いのか(中編)

前回、NFLでは、強いチームを長期間維持することが制度上難しい、ということを書きました。では、ペイトリオッツが、17年間で地区優勝14回、スーパーボウル出場7回、うちスーパーボウル制覇5回と、制度上の困難を乗り越えて強いチームを維持し続けられる理由は何なのか。
私なりに分析していることを、以下に書きたいと思います。

まず一つ目は、トップの資質。

トップとは、
チームのオーナー(持ち主)であるロジャー・クラフト
GM(最高経営責任者)・HC(ヘッドコーチ)であるビル・ベリチック
QB(クオーターバック)であるトム・ブレイディ

の3人です。
会社で言えば、株主・社長・管理職とでも言いましょうか。

この3人の皆が非常に有能であり、かつ、それぞれの個性・持ち味・考え方など「個そのもの」を最大限尊重しているように見受けられます。これは、言葉で言うのは簡単ですが、そう簡単にできることではなく、しかもそれを長年にわたって続けることが非常に困難であることは、誰もが経験しているのではないでしょうか。


ロジャー・クラフトオーナー

ロジャー・クラフト
(NFL JAPANからお借りしました)

ロジャー・クラフトオーナーは、チームと家族のような関係を創っている人格者であると思います。次に述べるビル・ベリチックにいわば全権委任し、チーム編成させています。
他のNFLチームでは、GMとHCが違っていることも多く、GMとHCで意見が異なる場合、不協和音が生じることになります。反対にメリットもあり、GMの暴走・HCの暴走を止めることができるため、よりよい選択ができる可能性があります。
しかし、クラフトは、ベリチックを信頼し、全てを任せているのです。これはなかなかできることではありません。その度量の大きさが、クラフトが非常に有能であると思う点です。


ビル・ベリチックGM/HC

ビル・ベリチック
(NFL JAPANからお借りしました)

そして、任されたベリチックは、その信頼に応え、チームにフィロソフィー(哲学)を植え付け、規律を重んじる風土を形成し、戦術をよく理解したクレバーな選手であることを重要視します。
よく言われているベリチックの口癖があります。
「All three phase」(オフェンス、ディフェンス、スペシャルチーム全て大事)
「Play 60 min」(60分間最後まで戦い抜く)
「Next man up」(1人が倒れたら次の選手が役目を果たす)

当たり前のことのようですが、常に実践することはとても難しいことです。

オフェンスとディフェンスが重要なのは誰もが理解し、そこに力を注ぎがちです。そのため、他のチームでは、スペシャルチームでのミスから相手に主導権を渡してしまうことも多々あります。
私の学生時代の経験からしても、スペシャルチームは非常に重要です。私が4回生の時の立命館大学戦では、京大は、後半開始のキックオフリターンでタッチダウンを取りました。結果は17−10でしたので、そのタッチダウンがなければ同点だったことになります。反対に関西学院大学戦では、試合開始早々のキックオフリターンでタッチダウンを取られ、そのまま引き離され完敗しました。
スペシャルチームは、試合のモメンタム(流れ)を左右する、非常に重要な役割を果たしているのです。
ペイトリオッツには、後にも述べますが、マシュー・スレイターというスペシャルチームリーダーがおり、今のチームのスペシャルチームの規律維持の役割を果たしているように見受けられます。今ではオフェンスの中心選手になったWR(ワイド・レシーバー)ジュリアン・エデルマンも、数年前まではスペシャルチーム中心に出場していました。気持ちがこもったプレーをするため私はその時から注目していましたが、体が小さく、まさかこんなに有名になるとは思っていませんでした。

次の口癖「Play 60 min」がまさに実践されたのが、今年の2月に行われた第51回スーパーボウルでした。第3Q残り8分の時点で、3−28。それまでファルコンズの攻撃を止められておらず、特にRB(ランニングバック)にゲインされていたため、リアルタイムでテレビ観戦していた私も、絶対に勝てないと諦めました。しかし、そこから怒濤の反撃が始まり、第4Qに同点に追いつき、オーバータイム(延長戦)に持ち込んで逆転勝利を収めたのです。
ベリチックは、ハーフタイムで、「Play 60 min」と繰り返していたそうです。
この試合を観て、「まさに諦めたらそこで試合終了や、やってやれんことはない」と強く感じたのでした。

もう一つ、私が強く感じているのが、「Next man up」、非常なまでのチーム編成です。
上に書いたジュリアン・エデルマンというWRが活躍するようになる前に、ウェス・ウェルカーというエースWRがいました。当時のオフェンスはウェルカー抜きには考えられないものでした。しかし、ベリチックは、2012年オフ、ウェルカーを放出します。私は、「ほんまかいな!来年大丈夫か?!」と思いましたが、大丈夫でした。スーパーボウルにこそ出場できませんでしたが、地区優勝は果たしています。ウェルカーはブロンコス移籍後は、怪我がちで思ったような活躍を挙げられなかったと言ってよいと思います。この年以降、ウェルカーの代わりに、エデルマンとラムズから取ったダニー・アメンドーラが活躍しています。
他にも、これもチームの中心選手であったDT(デフェンスタックル)ビンス・ウィルフォークを放出したり、DE(ディフェンスエンド)チャンドラー・ジョーンズを放出したり、スターCB(コーナーバック)ダレル・リービスを放出したりと、目が点になるようなことをします。しかし、ちゃんと代わりの者が出てきて、役割を果たすのです。
今年一番ショッキングだったのは、次に述べるQBトム・ブレイディの後釜だと思っていたジミー・ガロポロをシーズン中にフォーティーナイナーズに放出したことでした。ブレイディが怪我したらどうすんねん、と思うのですが、ベリチックには考えがあるのでしょう。
この、常人では考えもつかないチーム編成能力と、それでも次がちゃんと出てくるよう選手を育成している能力が、飛び抜けて凄いと思います。

加えて、相手を研究し尽くし、戦術を立てる能力が凄いことは言うまでもありません。それが如実に表れたのが、第49回スーパーボウルのCBマルコム・バトラーがゴール前でインターセプトしたプレーだったと思います。観ている誰もが、「絶対RB(ランニングバック)マショーン・リンチのランで来る」と思ったはずです。しかし、ペイトリオッツベンチは、パスを読んでいました。その結果、勝負を決めるインターセプトがなされたのでした。

まだまだ書きたいことはあるのですが、長くなってきたので、次に行きたいと思います。


QBトム・ブレイディ

トム・ブレイディ
(FBページからお借りしました)

次はいよいよ、歴史に残るスターQBトム・ブレイディです。
が、長くなりましたので次に続く。