法律上の争訟①

民事裁判においては,原告の請求が認められるかどうかということが争われます。

貸金返還請求であれば,お金を貸した事実があるのか,いくら貸したのか,いつ返すことになっていたのかなどに関する原告の主張内容が正しいのかどうかが判断されます。

しかしその前に,訴えの要件というものを充たしている必要があります。
訴えの要件には様々なものがあるのですが,ここでは2回に分けて,「法律上の争訟性」(裁判所法3条)という要件が問題となった,現実に私が他の弁護士3名と共に担当した事件について書いてみたいと思います。

事案は
あるお寺(J寺とします)の代表役員(住職)であったF(故人)から寺の寺務一切を任されていたY(私の依頼者)が,本山の管長(法主)Aが任命したJ寺の新代表役員(住職)Xより,Yは権限なくJ寺を占有(支配)しているからJ寺を明け渡せという請求を受けた
というものでした。

Fは昭和57年段階で,本山の管長(法主)Aから住職罷免の処分を受けており,法人登記上はFの後に3名が本山から任命されて代表役員として登記されていました。
つまりFは,住職罷免処分を受けた後も,別の代表役員(住職)が選任されている状況の下,J寺の住職としての活動を続けていたということです。

Yは僧籍を有しており,Fの後を受けてJ寺の実質的な住職としての活動を行っていました。

通常であれば,Yは法人登記上代表役員ではなく,住職罷免処分を受けたFから任されていたのみですから,J寺を占有する権限はないとしてXの請求が認められるのが筋です。

しかし私たちは,Xを代表役員(住職)に任命した本山管長(法主)Aが正当な管長(法主)ではない,Aが正当な管長(法主)であるかどうかは本山の教義に立ち入って判断しなければならず,それは裁判所の役割を超えているから本件は「法律上の争訟」に当たらず,訴えが却下されるべきである,と争いました。

結論としてどうなったか。
一審はこちらの主張が認められて勝訴しました。裁判官は思いきった判断をしてくれました。
しかし,控訴審でひっくり返されて逆転敗訴しました(破棄差戻しとなりました。)。

控訴審の判決は判例タイムズ1334号245頁に掲載されています。

当方は控訴審の判断に不服ありとして,最高裁に上告及び上告受理申立をしましたが,結論が出る前にYが亡くなられたため,控訴審の判断が確定することになりました。

明日に続きます。