法律上の争訟②

昨日の続きです。

そもそも「法律上の争訟性」があるとはどういうことか。
これは,①当事者間の具体的権利義務・法律関係の存否に関する紛争であり,②法令の適用によって終局的に解決できるものであること,とされています。

「法律上の争訟」に当たらない場合は,請求の中身の判断はされずに訴えは却下されます。いわば門前払いです。
私が担当した事件で問題としたのは上記の②の点です。

Aが本山の正当な管長(法主)であるためには,当該宗派では「宗祖以来の唯授一人の血脈を相承するものである」ことが必要でした。
これがなされているかどうかを判断するためには,血脈相承の意義を明らかにしたうえで,Aが血脈相承を受けたかどうかを判断しなければなりません。
そのためには,当該宗派の教義ないし信仰の内容に立ち入って審理・判断することが必要です。
これは,法令を適用することによっては終局的には解決できないことである,と当方は主張しました。

一審は当方の主張を認めましたが,控訴審で逆転敗訴したことは前の記事で述べたとおりです。
一審と控訴審で判断が分かれた理由は何であったか。

控訴審は,当方依頼者のYがJ寺を占有する権限を有するかどうかを判断するためには,前提問題としても宗教上の教義や信仰の内容を判断する必要はなく,J寺の代表役員(住職)が誰であってもXの請求が認められるかどうかの結論は異ならないから,法律上の争訟性を充たしていると判断しました。

かかる判断の背後にあるのは,法的安定性の重視と利益考量だったのではないかと思います。

当該宗派では,既にAを正当な管長(法主)とする秩序が形成されており
この安定性を重視したというのが一つ。そして,YはJ寺の代表役員(住職)に就任したことはなく,亡くなった代表役員(住職)Fから寺務を任されたのみというJ寺に対する利益関係しかなかったため,上記の安定した秩序に基づく本山側の請求をはね除けるだけの利益関係がなかった,ということがあったのではないかと思います。

この事件は,私が弁護士になりたての頃に担当し,宗教法人のなんたるかもまったく分かっていない状況で,ほぼすべての裁判所に提出する書面を作成した非常に思い出深い事件でした。

見通しは極めて厳しかったのですが,一審で勝訴し,最高裁に提出した
上告理由書と上告受理申立理由書も会心の出来でした。登録一年目で最高裁の破棄判決が取れるのでは!などと考えていたほどでした。

結果としてご依頼者が亡くなってしまい事件は終了しましたが,私が宗教法人に関わるきっかけとなった事件でした。

なお,当該宗派については同じ根っこの問題に関する多数の最高裁判決がありますので,以下にご紹介しておきます。
最二小判H1.9.8 判タ711号80頁
最三小判H5.9.7 判タ855号90頁
最三小判H5.7.20 判タ855号58頁
最二小判H5.9.10 判タ855号74頁
最三小判H11.9.28 判タ1014号174頁
最三小判H14.1.29 判タ1087号103頁
最二小判H14.2.22 判タ1087号97頁